日本土地環境学会の取組みと展望

 

 
日本土地環境学会 会長 柳 憲一郎 (明治大学法科大学院教授)
 
 日本土地環境学会は、1993年に設立され、本年22年目を迎えた。本会は、土地及び環境に関する学際的な研究を促進し、もって環境を基礎とする土地の評価、補償の実務に貢献するとともに、学術・文化の発展に寄与することを目的としている。ここで見られるように、土地の評価、補償を検討する学会であるが、その基礎として「環境」が位置づけられており、本学会の最大の特徴ともいえる。
 本会の設立年には環境基本法が公布されるなど、世界や国内が地球環境問題を検討し行動を始めた時である。土地を環境的側面から捉えるという本会の視点は、まさに斬新かつ先進的であり、発会当時の研究発表テーマを顧みれば、「農林地と環境保全」「開発利益の還元と補償」「都市環境と不動産価値」など、現在においても古さを感じないばかりか、今まさに検討を迫られている課題ばかりであり、同時に、現在においてもこれらの問題の解決には至っていない。
 この社会経済活動の中における「土地」を考えた場合、環境の価値をどう捉えるか、どのような評価をすべきか、という大きな問題に差し掛かる。これらへの取組みは、環境法学、環境経済学、環境社会学等においても少なからず取り組んでいる課題である。持続可能な社会の創出は、安全を基盤とした自然共生社会、循環型社会、低炭素型社会の統合により、形成されるものとの認識が第四次環境基本計画でも明らかにしている。
 土地の評価においては、不動産鑑定士による不動産鑑定評価が認知されているが、鑑定評価の方法も発展著しい領域であり、不動産鑑定評価の理論を検討する場としての本学会の役割も大きい。また、土地の収用や補償においても、土地の評価は最重要課題の一つであり、鑑定評価同様に検討すべき分野である。
  一方、土地と環境問題を考えれば、いわゆる土壌・地質汚染問題は、本会の検討すべき大きな柱の一つと位置づけられる。この問題は、人への健康リスクは勿論であるが、土地という財産への被害を検討する必要がある。我が国の土壌汚染対策法は、人の健康の保護を目的に2003年から施行され、2011年にその改正法が施行されている。現実の土地取引においては、未だ環境リスクの概念が定着していないことから、不確実性のあるリスクは非科学的に取り払おうとする行動が見受けられる。自然科学的にみれば、太古の昔から自然的に堆積された自然由来化学物質の蓄積であっても、法の定める指定基準値を超えることにより、法制度の枠内に取り込まれてしまっている。この点は人為起源の原因を公害と定義した環境基本法の枠から外れており、何らかの立法的な措置を講ずべき余地を問題提起している。
 本学会は、学会員を中心にこれらの問題についても時間をかけて、社会科学的見地からその実態と解決への方途の検討や提示を精力的に続ける所存である。それらは、非常に地道な活動ではあるが、その活動が本会の目的とする土地と環境への新たな地平を拓く一助となることを願ってやまない。
 このような本会の取組みに対して、皆様のご理解とご協力を頂きたくお願いする次第である。本学会は学際的な問題を取り扱うため、会員の構成は極めて多分野に渡り、各分野の積極的なコミュニケーションが行われるリベラルな学会を目指している。このような問題意識を持つ研究者ならびに実務家の皆様の入会を心より歓迎する次第である